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■相手と手段を間違えてはいけない

http://www.egawashoko.com/menu4/contents/02_1_data_30.html
2004/04/15
江川紹子

 まるで謝罪会見だった。
 4月14日に海外特派員協会で行われた、人質家族の記者会見は、高遠菜穂子さんの妹井上綾子さんの次の言葉で始まった。

「私たち家族のせいで、世界中の方々に大変なご迷惑、ご心配をおかけしていることを、深くお詫びします。にもかかわらず、世界中の方が、命を救うために協力して下さっていることに感謝します」
 井上紀明さんの兄洋介さんも詫びと感謝の言葉を述べ、郡山総一郎さんの母きみ子さんは、こう挨拶した。

「世界中の方にご迷惑をおかけしたことをお詫びします。うちの子どもの場合は、自己責任と言われれば、その通りです。でも命がある限り救おうと世界中の方から言っていただき、感謝しています」
家族が答えを控えた質問も多かった。
――政府の対応に対する感想を
「……」
――小泉総理に会えたら言いたいことは?
「謝罪と感謝です。それ以上は、ノーコメントです」
――政府の関係者と接触し、批判をトーンダウンするように言われたのでは?
「……」
――先の衆議院選挙でどこに投票しましたか。
「それが、3人の命の問題とどう関係があるのでしょうか」
――自衛隊撤退に関しての意見を
「……」


 連日、家族に向けられた批判や誹謗中傷の手紙、メール、FAX、電話などについて、井上さんは繰り返し、「すべての言葉を真摯に受け止めています。本当に何と言われても、帰す言葉はありません」と述べ、「それを踏まえたうえで、命を救うためにご協力をお願いしたいんです」と頭を下げた。
 郡山さんは、やはり繰り返し息子の「自己責任」に触れ、「それでも生きている限りは助けて下さいと言うしかないのですが、(非難の手紙を)読んでみればそうですね……」
 誹謗中傷も含めて、非難には一言も反論も弁明もしなかった。
 記者からは、家族の”メディア戦略”についても質問があった。
――メディアコンサルタントが着いているのですか?
――(事件発生から)時間が経ったので、戦略を変えるつもりは?
 家族らは、質問者に問い返したり、首をひねったり、趣旨がよく飲み込めない様子だった。
「僕たちは、本当に何をしたらいいのか分らない。僕たちとしてできることは何かと話し合って、世界中の皆さんに訴えていくことが必要だろうと……3人の命を助けて欲しいということを分ってもらいたい。僕たちは命以外、何も求めてないです。これしか方法がないから、行動しています」(井上洋介さん)
「東京に出てきてからタクシーを頼むのも、ホテルに戻るのも……」「コンサルトとか、いるわけがないです。自分たちが情報をどうやって入手できるか分らない。家族同士で話し合って、支援してくれる友人などからアドバイスを受けてやっています」(井上綾子さん)
「戦略って……私たちは素人で、戦略は最初からないです。多くの人に知ってもらうにはマスコミに出るのが一番だろうということで……」(郡山きみ子さん)
 こうしたやりとりを聞いても分るように、家族はいきなりこういう事件に巻き込まれ、訳も分らないうちに思いついたことをやってきたのだろう。


 その対応は、”メディア戦略”としては、とても稚拙だっただろう。
 だが、忘れてはいけない。
 彼らは、被害者なのだ。
 責任を追及すべき相手方、あるいは議論をしなければならない対象は、別にいる。

 本件事件のみを考えれば、まずは拉致・監禁しているグループだ。
いくら戦争中だとはいえ、純粋な民間人を拘束したり、ましてや「生きたまま焼き殺す」などという脅しをすることは許されない。
 しかも彼らは、イラクの人々のために活動してきた人々なのだ。
 犯人グループは、自衛隊の撤退を要求してきた。
 だが、今回の事件が起きたことで、自衛隊の撤退論はかえって言いにくくなった。
 本来であれば、サマワの迫撃砲事件に関連して撤退論がもっと活発に語られるだろうに今の時期にそれをすることは犯人グループの要求を飲んだ形に見られてしまうのではないかという危惧が働く。
 派遣には反対した民主党も、「非戦闘地域が現実に存在しなくなった以上、政府は、テロに屈する形ではなく、(撤退を)判断しないといけない時が来ている」と、煮え切らない言い方をせざるをえなくなっている。
 もし、本当に日本政府が自衛隊を早期に撤退させることを望んでいるのであれば、こうした事件は逆効果だ。

 また、「ファルージャの大虐殺」などイラクの人々がアメリカの犠牲になっていることを訴えたいなら、アルジャジーラとアルアラビーヤだけではなく、多くのジャーナリストを呼んで、その実態を見せることが一番だ。
 現場に行って、取材をしたいジャーナリストはたくさんいるはずだ。
 私も、その一人だ。
 この夏にはまたイラクに行って、攻撃の犠牲になってきた人たちの取材をしようと考え、 その日程を確保していた。
 しかし、今の状態では行かれないではないか。

 また、新たに2人の日本人が拘束された、という報道がある。
 しかも、バグダッド市内で襲われたらしい。
 数日前、バグダッドにいるジャーナリストの渡部陽一さんが、ラジオ番組の中で「取材に行こうにも、危険で外を出歩けない」と語っていた。
 こんな状態で、どうやってそこで起きているイラク人の悲劇を、伝えられるだろう。
 この点でも、彼らがやっていることは全くの逆効果なのだ。

 そのことを、どうしたら彼らに伝えられるのだろう……
 適切な手段がみつからず、ただひたすらもどかしい。

 こうした犯人側の問題をふまえたうえで、そのそもなぜこういう事態が起きたか、もっと大局的に考える必要もある。
 3人は、おそらくファルージャ周辺に拘束されているのではないか、と言われている。
 私が昨年8月の時点でイラクに行った時も、ファルージャやラマディの近辺をいかに無事に通過するかが、安全問題では一番大きな課題だった。
 この時点では、最も可能性があるのは、盗賊に襲われることだった。実際、たくさんの人が銃を突きつけられ、金品を脅し取られている。しかし、そのために少なくとも日本人が殺されたり、拘束されるような事件は聞いていない。
 外国人を拉致して脅したり、殺害したりするようになったのは、やはり米軍による攻撃が激しくなってからだ。
 アルジャジーラの報道などを見ると、ファルージャでは600人もの市民が犠牲になっており、幼い子どもたちも殺されている。米軍の攻撃はもはや無差別と言っていいようだ。
 しかし、イラクを巡る報道はどんどん地味になっていて、人々の関心は薄らいでいた。
その間に、状況がよくなっているのではなく、雇用も治安も電力も回復が遅れていた。政治の枠組みを決める手続きは、アメリカ主導で行われ、シーア派の穏健派のリーダーすら反発する状態だった。しかも、反米的な新聞を閉鎖するなど、アメリカの横暴な振る舞いは続いて不満が高まっていた。
 しかも、ブッシュ政権のこのやり方をいさめる者は誰もいない。
 緒方貞子さんが、9.11事件に関連して、無関心がアフガニスタンの悲劇を生んだとを指摘されていたことを思い出す。

 そもそも、この戦争そのものが、全く大義のないものであったことが、すでに明らかになっている。
 アメリカが攻撃をする前のイラクには、大量破壊兵器もなく、アルカイダとの関係も認められない。ブッシュ政権がテロリストと呼ぶ人々は、サダム・フセイン政権下のイラクでは活動できる状況ではなかった。
 ところが、この戦争が始まってからはどうだろう。
 むしろ、アメリカのイラク攻撃が、反米の”テロリスト”たちに口実を与え、彼らが活躍する場を与えてしまったのではないか。

 仮にサダム・フセインを排除するという名目が、戦争を始める名目になりうるとしても、 それであればフセイン後のイラクをどうするか、事前にきちんと計画が立てられてるのが当然だ。そのためには、精神風土、民族や宗教などの問題を研究していなければならない。
 様々な報道によれば、ブッシュ大統領は9.11事件の直後から、イラク攻撃を考えていた、という。実際に攻撃を始めるまで1年半もの準備期間があった。その間に、何をしていたのだ。
 大規模な「衝撃と畏怖」作戦によってイラク人を震え上がらせれば、その後はすべて柔順に従うと踏んだのか。それとも、サダム・フセインからの”解放者”だと花と歌で歓迎してくれると、本気で思っていたのか。
 いずれにしても、傲慢このうえなく、見通しは大甘だ。

 大義がないばかりでなく、まともな準備も計画もない。
 そんな戦争を支持し、自衛隊まで送り込んでブッシュ政権に協力することが、果たして本当に日本の国益に適うことだったのだろうか。
 しかも、自衛隊を送る時には、イラクは「戦地」ではないと言い、むしろ危険なイメージを薄めることに腐心していながら、こういう事件が起きたら、避難勧告は出していたと行った者の「自己責任」を強調するなんて、あまりにご都合主義がすぎるのではないか。そもそもこの避難の勧告は、イラクにいる者の耳に届く形で出されたのだろうか。
 今回は、イラクに出向いていった人々が対象になった。
 しかし、今のようにアラブ人の間の反米感情が高まり、そのアメリカと日本の両政府の関係がますます密接になっていく状況を見ていると、他の国にいる日本人が、以前より危険な状況にさらされることはないのだろうか、という不安もわいてくる。
 その行き着く果てに日本の中が、何らかの攻撃の対象になる危険性はないのだろうか……。
 今、東京都内ではあちこちで警察官の姿を見る。大きな駅では、目立つ形で制服警察官が立っている。
 こういうことで、本当にスペインの列車爆破のようなことが起きるような事態は防ぐことができるのか。
 現在は、こうした事柄こそ、もっと活発に議論されるべきではないか。
 議論の矛先を向ける相手とその手段を、私たちも間違えてはいけない。



 小泉は家族に逆切れし面会を拒絶した。影でぐちぐち家族に対する不満を言っていたことを官邸記者が週刊新潮にリークし、明らかになった。人々は小泉の異常さではなく、首相を怒らせる家族というフレームで捉え、恥ずべき下劣な小泉の行動は糾弾されていない。

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Time2004-04-16 10:19:54
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